タコ来る(前編)

人手が不足していた。圧倒的に、人手が不足していた。とにかく、人手が不足していた。

人類が地球を飛び出し活動するようになって、軽く千年以上の時が過ぎた。人類の活動圏は、今なお広がり続け、それに伴い、宇宙船パイロットの需給は、常に逼迫し続けている。

「というわけで、だ」

ラスティンは、言った。

「とにかく、どんどん勧誘し、メンバーを増やすんだ。少々のことは、目をつぶっていい。細かいことは、気にするな。どの道、大事なことは、宇宙が教えてくれるだろうしな」

そう、宇宙は、人手不足なのである。細かいことにこだわっては、いられないほどに・・・

ラスティンが、皆にそんな発破をかけて三日ばかり。パイロット希望者受付係のウェイは、やってきた希望者を前に、硬直していた。

タコである。どう見ても、タコである。実物は、見たことがないが、きっとタコに違いない。どう考えても、タコにしか見えない。

「パイロット募集って聞きました~」

タコは、のんのんと言った。どうやら、人語を操るらしい。

「宇宙に行ってみたいです。ワタシでも、やれますかねえ?」

やれますかねえ、と聞かれても。

「手が足りなくて困っていると聞きました。手なら、人間よりたくさんあります」

タコは、ひらひらと手(?)を振り回して見せた。いや、それ、足じゃないのか・・・ウェイは思ったが、言わなかった。タコには、詳しくない。

—いやいや、そもそも、手が足りないって、そういう意味じゃないからっっ—

ウェイは、内心、そう突っ込みを入れつつ、端末を操作するよう伝えた。

タコに操作できるとは、思えなかったが、これができないようでは、宇宙船の操作なぞ、到底無理だろう。その時は、とっととお引き取り願えばいい。

「はあ~、難しいですねえ」

タコは、言って、頭をかいた。ぶつくさいいながら、一人前に画面を操作している。そして、しばし後、顔を上げて言った。

「えーと、これでいいでしょうかー」

見たところ、一応きちんと記入されているようである。チーフのラスティンは、「細かいことは気にするな」と言っていた。細かいことというのが、一体どれくらいのものを指すのか、まだ新人のウェイには、良く分からない。

—ま、上の連中が適当に判断するだろう—

自分が勝手に却下した、と後で叱られては、かなわない。ウェイは、それで、そのままタコの申し込みを受け付け、次へと回すことにした。